部屋とマリオカートとスーパーカブと私

大して考えていないようにも思われるかもしれないが、ブログの内容にはこれでも結構気を使っている。それ故に書き終わったらドッと疲れが出てくるし、いったい自分は何のためにブログ書いているのか自問自答することもしばしばある。たまには構成とか主張とか考えずに好き勝手書いてみたい衝動に駆られるのだ(いつも好き勝手書いてるじゃねえかと言われるだろうが)。だからちょっと息抜き。しがないおっさんの日常なんて全く需要はないのはわかっているが、これは自分のブログなので書きたい事を書く。

 

 エルボーの教訓

実は2ヶ月前から山口県のとある場所に長期出張中の身。かっこよく言えば新規事業の立ち上げだが実際は自分だけ残されて「あとはお前一人でよろしくやれや」というよくある話だ。いやよくある話なのかどうかはわからないが、とにかく単身赴任中なんである。

とりあえず住むところを決めないといけないので、今回は自分で探す事になった。「今回は」と書いたのは2年前に同じように四国に長期出張した時の思い出したくもない思い出があるからだ。単身赴任で探す部屋と言って多くの人が真っ先に思い出すであろう「夢中で頑張る君へエルボー」でおなじみの何とかパレスと契約したのだが、これが最悪。「静かなところですからゆっくり寝れますよ」などと甘い言葉に誘われていくつかの候補のなかから決めたが、目の前には西村ジョイしかない辺鄙な場所だった。単身生活をしていたら近くにほしいのはコンビニなのだが、コンビニらしきものは一切ない。しかも自分が帰る頃には西村ジョイは既に閉店時間。せっかくだから西村しようにも、あちらから願い下げされてしまっているのだ。俺だってたまには西村したいときもあるのに、シャイな西村は明かりさえついていない。オマケにエルボーの何とかパレスは木造で斜め上の住民の足音まではっきり聞こえるような薄い壁が、さらにイラつかせる。だいたい何であのエルボー物件は、どの部屋でも入った瞬間に木工用ボンドみたいな匂いが充満しているのか。おかげであれ以来ボンドの匂いをかいだ瞬間に、エルボーを思い出してしまうようになった。

そんなわけで今回はエルボー物件には目もくれず、地元の不動産屋を当たってみた。会社から行けと言われて行くのに、部屋も全て自分で探していると本当に何をやっているんだという気分にもなるが、この時点でもうすでに時間が無い。急遽決まったことなので見つける時間は限られていた。慌ててネットで家具付き光熱費込み月額65,000円の単身赴任者用ウィークリーマンションを見つけ、時間がないのでさっさと契約。「四国のときよりは街中だしそこまで不便はしないだろうから寝れればいいや」との考えで契約した時にはエルボーの失敗の事なんて頭の中からは消えている。

 

移動初日、夜までガッツリ仕事が入っていたので昼間のうちに不動産屋のオバさんに鍵だけ渡してもらい、実際にウィークリーについたのは夜中。暗い為周りの環境はよく解らなかったが、まずまず静かそうなところとの印象だった。エルボーには無かった炊飯ジャーと電気ポット、トースターまで置いてある。お、こりゃいいや、自炊し放題だぜ(しないけど)と満足して眠りについたのだが、朝方にトラックのエンジン音で叩き起こされることになる。時計を見れば朝の5時半だ。「早起きの住民がいるもんだ。まあしばらくすると出て行くだろ」と思っていたら何分もエンジンを付けっぱなし。しばらくして出て行ったと思ったらまたトラックが帰ってくる。ズルズルとダンボールを引きずるような音もする。何なんだこの住民は、このウィークリーを倉庫にしてやがるのか、なんて迷惑なヤツなんだと腹が立って寝れなくなりそのまま夜明けを迎える事になってしまった。「何だよ全く…」とブツブツいいながらカーテンを開けたら目に飛び込んできたのは「○○航空」と書かれたトラックが何台もある物流倉庫。終わった。エルボーの教訓は生かされることは無かったのだ。

 恐怖のマリオカート

「まあ朝は早いけど夜はしっかり寝れるから我慢しよう」自分に言い聞かせていたのだが、次の日は次の日で仕事を終えて帰ってくるとドアを開けた瞬間にボウゥゥーン、ボウゥゥーンとエンジン音のような重低音が響いてくる(※夜中の1時半です)。男の「ヒャッホーーーウ!!」と言う声や女が「キャーーー!!」と叫ぶ声も聞こえる(※夜中の1時半です)。単身赴任用のマンションで何でカップルで叫びながらマリオカートやってやがるんだ。アハハハハハなんていいながら笑あっている声も聞こえる(※夜中の1時半です)。仕方が無いのでその日はイヤホンで音楽を聴きながら寝ることにした。弱っ。

「まあこの日はたまたま泊りに来ていただけだから今日は大丈夫だろ」と帰った次の日もマリオカートの宴は相変わらず続いていた。>ボウゥゥーン、ボウゥゥーンという重低音とともに男女の笑い声が響いてくる。それにしてもここまで聞こえてくるなんてどんだけデカイ声で会話してるのか。怒りを通り越して呆れてくる。

ここまで読んだ方は「隣に言いに行けよ!」と思うかもしれないが、なにしろビックリするくらい小市民な私。こんな夜中にマリオカートを叫びながらやっているカップルなんてどんな思想を持っているかわかったもんじゃない。逆上して刺される可能性だってある。自分で抵抗できるとしたらイヤホンで音楽を聴きながら寝ることだけなのだ。

それでもさすがに仕事に支障をきたす程度には睡眠不足になってきたので、不動産屋のオバちゃんに事の一部始終を話す事にした。するとオバちゃんは「あー、隣は長く住まわれている若い女性なんですけどねぇ。それは申し訳ありません、注意しておきます。彼氏でも出来たのかしら?」とのこと。彼氏が出来たかどうかは俺の知った事じゃないが、男連れ込んでマリオカートすんなっつーの。いや、マリオカートかどうかは知らないんだが、俺の中ではもう完全にマリオカートでバナナ落としている絵が浮かんでくるのだ。氷の面でツルツルすべりながらキャーーーー!!とか言いながらやってるんだろとか仕事をしながら考えていたら、不動産屋のオバちゃんが仕事場にやってきた。「本人にメールしたら『趣味の映画を見るために高級スピーカーを買ったんです』って言うんですよ。もう!!まったく!!」と息を切らせながら怒っている。単身用のウィークリーでスピーカー買うなよ。「以前もあったんですよ!!他のお客さんの迷惑になるからやめて言ったのに!!もう本当にゴメンナサイ!!ほらメールで『お隣の方に申し訳ありませんとお伝えください』って!!」とおもむろにメールを自分に見せようとしてきたので「もうわかりました、わかったので今後気をつけてもらったらそれで良いです」と伝えておいた。不動産屋のオバちゃんと見ず知らずの女性のメール内容など見たところで俺に一体なんのプラスになるんだ。というか、こうやって隣の人の情報とか喋ってるんだったらそれはそれで不安だ。自分なんて何ていわれてるんだろう。「幸の薄そうなサラリーマン風情の男性」なんていわれてたりするんじゃなかろうか。

 スーパーカブとの同居生活

 こうしてマリオカート女の恐怖は去ったが、新たな災難がやってくることになる。先の不動産屋のオバちゃんには伝えていたのだが、マリオカート女と逆側の部屋の音がかなり聞こえていた。オバちゃんいわく「大阪のほうから来ていらっしゃるバイク乗りの事務の男性」が住んでいるらしい。そういえばアパートの前にはスーパーカブがとまっていることがある。

マリオカートのおかげでわからなかったのだが、静かになると今度はこのスーパーカブのルーティーンが気になってくるのだ。夜の12時になるとグゴオォォォ…グゴオォォォ…と一定のリズムで聞こえてくる。爆音イビキである。それにしてもこの部屋の壁の薄さには驚く。隣のイビキが聞こえてきたら駄目だろう。ファーーアというあくびまで聞こえてくるし。資料には鉄筋コンクリートと書かれていたが、どう考えてもエルボーと同じベニヤ板で作られているとしか思えない。

そしてこのスーパーカブがリアルに隣にいる事を最も感じさせてくれるのが、部屋にいても聞こえるトイレットペーパーを回すゴロゴロゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロゴロゴロ…という音なんである。なんでゴロゴロゴロゴロゴロって5回以上回すのだろう、回しすぎだろ、キレが悪いんだろうか、とか憶測が膨らんでくる。しかも、自分がトイレに入るタイミングとバッチリあったりすると更に事態は悪化する。便座を上げる音、レバーを回す音、水を流す音、これ以上ない現実と共に迫ってくる。It's real。なんで唐突に英語を使っているのかわからないがとにかく、It's realと表現したい気分になるのだ。

自分が用を足して今まさにトイレットペーパーを回そうとすると、先にスーパーカブにゴロゴロゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロゴロゴロ…とやられたりする。同じタイミングが嫌なのでそんなときは自分は用を足した後もしばらく便座に座り込んでほとぼりが覚めた頃に、やさしくそっとトイレットペーパーを回すのだ。何でこんなにスーパーカブに気を使っているのか自分でもよくわからない。こんな薄い壁一つ隔てて寝ているなんてちょっとした同居生活だ。小さな抵抗としてベッドの位置をスーパーカブ側からマリオカート側に移動させてみたが、それでも状況は大して変わらない。コレを書いている今も玄関ドアの除き窓から駐車場を見ているとスーパーカブは停まっている。もしかして自分と休みが一緒なのだろうか。いや昼から出勤なのか。なんでこんな事を気にしてるのか自分自身でもよくわからないが、休みの今日もトラックとダンボールの音で朝5時半に起きたのが現実です。寝ます。